フルーリス通り27番

パリ左岸に建つ古いアパルトマン、調べていたらここに過去住んだ人たちに次々と行き当たった。



27 Rue de Fleurus, Paris

このアパルトマンには既に名声を得ていたジャン=レオン・ジェローム(1824-1904)が住んだ(1846〜1854)。この時期に代表作のいくつかを描いている。後にブリュッセル通りに引越した。短期間ながらルドンが師事したのはジェロームの私塾だった。

少し間をおいて1882年に、画家を志してポーランドから来たアンナ・ビリンスカ(1857-1893)が住んだ。地元ポーランドでは既に絵画展に出品したりしていたが、パリに来てジュリアン・アカデミーで研鑽を積む。経済的に厳しい状態だったが医者の父親が亡くなるといよいよ窮乏し、ジュリアン・アカデミーで教えるようにもなる。1892年に結婚してワルシャワへ転居した。ここでパリのようなアカデミーを開こうとするが、心臓発作で1893年に亡くなる。36歳だった。


自画像、アンナ・ビリンスカ

ビリンスカと入れ違いのように入居したのがルドンだった(パリで住んだ場所)。子供も生まれ、故郷からの送金も途絶えがちで窮乏気味だったので、ビリンスカが引越して空いた部屋だったのかもしれない(これは未確認であるが、画家であれば同じ条件の部屋に入る可能性はある)。1年ほど暮らしてルガール通りに引越した。送金が止まりいよいよ窮乏の度合いが強くなり、家賃が高く思えたのかもしれない。

このアパルトマンを決定的に有名にしたのはルドンではなく、1903年以降レオンとガートルードのスタイン兄妹が住んでからだった。特にガートルードはマティス、ドラン、ピカソ、ブラックといった当時の現代絵画を収集し、部屋にはルドンの作品(花)もあった。特にピカソの『アヴィニヨンの娘たち』は制作途中を目にした数少ない一人で、肖像画も描いてもらっている。


ガートルード・スタイン、後ろにピカソが描いた肖像、撮影はマン・レイ

アパルトマンのサロンには画家だけでなく、作家が数多く出入りしていた。スタインは第二次世界大戦が始まるまでアパルトマンに住んだ。

ジェロームやスタインが住んだのは家賃が高く広い部屋で、ビリンスカやルドンが住んだのは、より安い上の階だったのかもしれない。

かげろう

おやつを買って帰ってきた途中でみつけた。
緑があざやか。



クサカゲロウという種類らしい。
幼虫はアブラムシを大量に食べてくれるという。

キヒヒヒ


ベル・エポック時代の音楽

先月、浜離宮ホールでの反田恭平リサイタルのうちドイツ音楽を中心としたプログラムを聴いた。アンコールは意外にもドイツ音楽ではなくショパンとシャブリエの小品だった。

偶然にもベル・エポックと呼ばれた時代のフランス音楽についての本を2冊みつけた。


ベル・エポックの音楽家たち
フランソワ・ボルシル著、安川智子訳、水声社、2016年

ドビュッシーやラヴェルの影に隠れてしまった多くの音楽家たちについて詳しい。おおよそ時間軸に沿ったトピックスを章立てして冒頭に関連の深い写真を掲載している。「使徒行伝」と題された章はスコラ・カントルムにあてられ、その章扉に選ばれた写真は興味深い。



うろ覚えながら、この写真はスコラ・カントルム最初の卒業生の写真と記憶している。中央に座っているのがスコラの校長で厳格なヴァンサン・ダンディで、教え子たちはきちんと並んでいる。その状態をエスプリに富んだ説明をしている。

風刺画(前章)の次は、学級写真を見てみよう。ここに写るのは完全なるシンメトリーである。フランクに続くフランキズムは、堅苦しくて規律正しく、幻覚で清教徒的な風采を帯びていたが、それを体現しているのが中心に座る人物、大司祭のヴァンサン・ダンディである。(p47)

この写真のなかで、シンメトリーを崩している人物がいる。一人横を向いているセヴラックである。

写真の中で、デオダ・ド・セヴラックはシンメトリーを崩している。秩序を乱しているのだ。カメラをじっと見つめるかわりに、右横顔を向け、別のところを眺めている。彼の短い生涯のうち七年間を過ごすことになったこのスコラからはもうはるか遠いところにいる。(p52)

その後は既に知っていることが書かれているが、少ないスペースのなかで簡潔に記述されている。

シャブリエとユイスマンスは共に内務省に勤め、机が向いあわせだったのは、この本で初めて知った興味深いことだった。

ドビュッシーやラヴェル以外にも素晴らしい音楽家がこの時代大勢いたことを本書では伝えようとし、巻末にそれらマイナーな作曲家のミニ辞典(いまだ日の目を見ぬ作曲家たち)がついている。限られた紙面のせいか、セヴラックはここに登場しているがシャブリエとボルドは登場していない(その代わり『夾竹桃のもとで』に登場する)。ラヴェルをさしおいてローマ賞を受賞したエメ・キュンクは再評価され始めているのに本文にも登場していない。それでも、この時代の音楽家を知るにはちょうどよい本である。

もう一冊もタイトルは『ベル・エポックの音楽』であるが、先の本と違いフォンフロワド修道院という小さくも大きな限定がついている。



Mario d’Angelo
La musique a la Belle Epoque
Le Manuscrit Recherche-Univers, 2013

この修道院は過去の記事に書いたような歴史があり、ファイエによる復興の直前から1914年まで、1910年のヴァカンス(エリオガバル初演もこの間にあった)を中心に、壁画を制作していたルドン、セヴラックやビニェスについて多く割かれている。フランス語なのでまだ詳しく読んでいないが、とても興味深い。

ブレンダン関連本

designing the Secret of Kells
Tomm Moore & Ross Stewart
Cartoon Saloon, Ireland, 2014.

映画公開(2009年)後の2014年に出版された、アニメの原画/設定資料をもとにしたデザイン本。これまでもストーリーブックのようなものが出版されていたが、この本については最近まで出版されていたことを知らずにいた。Amazon(JP)で新刊本はなく(当時、今は出ているが高い)古書で出ていたものも価格はかなり高く、洋書店を通じて入手することにした。アイルランドに在庫があることがわかり直接取り寄せ、途中夏休みが入ったので1.5ヶ月ほどかかった。価格はAmazonよりかなり安かった。


表紙


太古のヨーロッパの森に建てられた修道院はきっとこんな感じ

アニメのプロジェクトが開始したのは1999年、日本の商業アニメと違ってたっぷり10年の時間をかけて制作された。


キャラクターは『ケルズの書』をもとにデザインされた

ジブリやディズニーなど大作アニメと同じく、いったん設定されていたものが削除や変更されてしまって目にすることがなくなった部分も多い。膨大な量のデザインから制作されたことがわかる。最初の頃はかなりヨーロッパのコミック調だったようである。

初期(1999年)のイメージ

特にこのアニメでは『ケルズの書』のXρページ(最後に登場)を再び描き、しかも動かさなければならないからその部分だけでもかなりの労力がかかっている。最終的にアニメ作品が素晴らしいのは、観る者にとってそういった裏の苦労が感じられないところにある。

おまけ

ふくろうを買うともれなく陶製のメダルがついてくる(初回のみ)。古代ギリシアの銀貨からとられたデザインであるが、ちょっとした秘密がある。


メダル


ギリシアの銀貨、ふくろう違い、グリプトテーク

全体が白っぽいので、反射光ではコントラストが低くてよくわからないが、透過光でみると、はっきりみえる。


透過光

リトファン(薄胎磁器)というのだそうで、19世紀初めに陶板肖像画としてパリでつくられた。磁器の半透過する性質を利用してろうそくのスクリーンとして利用されたという(以上ヘレンド展図録2000年から)。家にも陶板肖像画があったので試したところ、セピア色の肖像画が浮かび上がった。


リトファン、ザクセン・フラワー


透過光

ふくろうは夜の鳥なので、闇に浮かぶ姿にリトファンは合っているように思える。

ブックレット

ふくろうシリーズは商品本体だけでなく、附属のブックレットがとても充実している。ふくろうの棲むサン・ピエール教会はモニュメントでない素晴らしい(というか印象に強く残る)彫刻が数多くあり、ブックレットにも一部が登場している。


表紙

「東方の驚異」で説明されたページ、柱頭彫刻の写真があり、どれも個性的。


 南扉口は洗浄されていた


ムーア人のようなデカ顔


ぞうといったらババール


ジョグラール


ライオン?と悪魔

教会と彫刻の解説は金沢さんだった。この教会に関して最も相応しい人である。

署名

オールネィのサン・ピエール教会アプシスの主軸にある窓は彩飾写本のように装飾で囲まれている。


サン・ピエール教会の窓

興味深いのは下のフリーズで、上半身が人、下半身が蛇の怪物が絡み合うように装飾されている。この姿で最も有名なのはゲーテの短編の主人公にもなっているメリュジーヌ。サン・ピエール教会が建つ一帯はメリュジーヌ伝説が伝えられていた所で、15世紀のクードレッドの物語にも「メリュジーヌはポアトゥー地方に数多くの教会を建てた」と記されているくらいである。モデルはおそらくアリエノール・ダキテーヌ、このフリーズはメリュジーヌの署名なのかもしれない。


クードレッド、メリュジーヌ物語、15c.

サン・ジャックの道

2012年からフランスで発行されたサンチャゴ巡礼路切手シリーズ「サン・ジャック・ド・コンポステッレの道」は、4つの道からそれぞれ一つずつ教会がとりあげられていた。昨年については既に紹介したが、第2年目の「トゥールの道」(Via Turonensis)からはオールネィが選ばれた。入手できたドキュマン(公式解説書)の表紙はサン・ピエール教会西正面が描かれている。


ドキュマン表紙


だいたい同じ位置から撮影することになる


ゴシックの塔が写らないようにすると、ロマネスク時代のイメージに近づく

ドキュマンには小型シートが貼られている。オールネィは東側からみた聖堂がデザインされ、南扉口も少しだけ見えている。他はコンク、サン・ジル・デュ・ガール、ヌィイーの教会。




思考停止


いしいひさいち、「現代思想の遭難者たち」から

私自身のやり方は、彼の哲学を読んでいる間は彼の生涯についてはカッコに入れ、私自身の政治的地平をテクストの政治的地平と融合させることである。

ダレン・ラングドリッジ、田中彰吾他訳、現象学的心理学への招待


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