ブレンダン関連本

designing the Secret of Kells
Tomm Moore & Ross Stewart
Cartoon Saloon, Ireland, 2014.

映画公開(2009年)後の2014年に出版された、アニメの原画/設定資料をもとにしたデザイン本。これまでもストーリーブックのようなものが出版されていたが、この本については最近まで出版されていたことを知らずにいた。Amazon(JP)で新刊本はなく(当時、今は出ているが高い)古書で出ていたものも価格はかなり高く、洋書店を通じて入手することにした。アイルランドに在庫があることがわかり直接取り寄せ、途中夏休みが入ったので1.5ヶ月ほどかかった。価格はAmazonよりかなり安かった。


表紙


太古のヨーロッパの森に建てられた修道院はきっとこんな感じ

アニメのプロジェクトが開始したのは1999年、日本の商業アニメと違ってたっぷり10年の時間をかけて制作された。


キャラクターは『ケルズの書』をもとにデザインされた

ジブリやディズニーなど大作アニメと同じく、いったん設定されていたものが削除や変更されてしまって目にすることがなくなった部分も多い。膨大な量のデザインから制作されたことがわかる。最初の頃はかなりヨーロッパのコミック調だったようである。

初期(1999年)のイメージ

特にこのアニメでは『ケルズの書』のXρページ(最後に登場)を再び描き、しかも動かさなければならないからその部分だけでもかなりの労力がかかっている。最終的にアニメ作品が素晴らしいのは、観る者にとってそういった裏の苦労が感じられないところにある。

おまけ

ふくろうを買うともれなく陶製のメダルがついてくる(初回のみ)。古代ギリシアの銀貨からとられたデザインであるが、ちょっとした秘密がある。


メダル


ギリシアの銀貨、ふくろう違い、グリプトテーク

全体が白っぽいので、反射光ではコントラストが低くてよくわからないが、透過光でみると、はっきりみえる。


透過光

リトファン(薄胎磁器)というのだそうで、19世紀初めに陶板肖像画としてパリでつくられた。磁器の半透過する性質を利用してろうそくのスクリーンとして利用されたという(以上ヘレンド展図録2000年から)。家にも陶板肖像画があったので試したところ、セピア色の肖像画が浮かび上がった。


リトファン、ザクセン・フラワー


透過光

ふくろうは夜の鳥なので、闇に浮かぶ姿にリトファンは合っているように思える。

ブックレット

ふくろうシリーズは商品本体だけでなく、附属のブックレットがとても充実している。ふくろうの棲むサン・ピエール教会はモニュメントでない素晴らしい(というか印象に強く残る)彫刻が数多くあり、ブックレットにも一部が登場している。


表紙

「東方の驚異」で説明されたページ、柱頭彫刻の写真があり、どれも個性的。


 南扉口は洗浄されていた


ムーア人のようなデカ顔


ぞうといったらババール


ジョグラール


ライオン?と悪魔

教会と彫刻の解説は金沢さんだった。この教会に関して最も相応しい人である。

署名

オールネィのサン・ピエール教会アプシスの主軸にある窓は彩飾写本のように装飾で囲まれている。


サン・ピエール教会の窓

興味深いのは下のフリーズで、上半身が人、下半身が蛇の怪物が絡み合うように装飾されている。この姿で最も有名なのはゲーテの短編の主人公にもなっているメリュジーヌ。サン・ピエール教会が建つ一帯はメリュジーヌ伝説が伝えられていた所で、15世紀のクードレッドの物語にも「メリュジーヌはポアトゥー地方に数多くの教会を建てた」と記されているくらいである。モデルはおそらくアリエノール・ダキテーヌ、このフリーズはメリュジーヌの署名なのかもしれない。


クードレッド、メリュジーヌ物語、15c.

サン・ジャックの道

2012年からフランスで発行されたサンチャゴ巡礼路切手シリーズ「サン・ジャック・ド・コンポステッレの道」は、4つの道からそれぞれ一つずつ教会がとりあげられていた。昨年については既に紹介したが、第2年目の「トゥールの道」(Via Turonensis)からはオールネィが選ばれた。入手できたドキュマン(公式解説書)の表紙はサン・ピエール教会西正面が描かれている。


ドキュマン表紙


だいたい同じ位置から撮影することになる


ゴシックの塔が写らないようにすると、ロマネスク時代のイメージに近づく

ドキュマンには小型シートが貼られている。オールネィは東側からみた聖堂がデザインされ、南扉口も少しだけ見えている。他はコンク、サン・ジル・デュ・ガール、ヌィイーの教会。




思考停止


いしいひさいち、「現代思想の遭難者たち」から

私自身のやり方は、彼の哲学を読んでいる間は彼の生涯についてはカッコに入れ、私自身の政治的地平をテクストの政治的地平と融合させることである。

ダレン・ラングドリッジ、田中彰吾他訳、現象学的心理学への招待


オールネーのふくろう

中へ入らずに南の扉口へまわるのは理由がある。ロマネスクで最も有名な扉口の一つがそこにある。モワサックやヴェズレーのようなティンパヌムの群像彫刻はここにないが、最もロマネスクらしい世界であった。


CD-ROM Aulnayから

4層のヴシュールのうち、特に最外の層に棲む様々な生き物たちはいつまでも見ていて飽きず、まさに「日がな一日眺めたくなる」浮彫彫刻だった。


南の扉口

個性的な住人たちのうちでよく知られているのが、なぜか31人いる長老でもアトラスでもなく、一羽のふくろう、扉口の中央やや左寄りにいる。


中央にふくろう、右端にはキュクロプスがいる

このふくろうをみたのがユーロになる前の1999年、それから17年後にオールネィのふくろうが家に来るとは思ってもいなかった。

洋梨柄が多いことで重宝しているヘレンドが12年前から「世界のふくろう」というシリーズを年1回出していて、今年は3クール目に入り「ロマネスクのふくろう」をテーマにしている。この時代の柱頭彫刻やモディリオンにしばしばふくろうが登場する。昨年はヴェズレーだったが今年はオールネーになった。早速お店で選ぶがハンドペイントなので少しずつ違う。選択の基準は「実際みた浮彫に最も雰囲気が近い」こと、5羽の中から晴れて選ばれたのが下のふくろうだった。


オールネーのふくろう


扉口から抜け出た?



羽根の塗り分けが細かい

ヘレンドらしいアレンジが加えられているが浮彫の雰囲気を失っていない。特に浮彫では表現できない後ろ姿がとてもよい。


浮彫にはない後ろ姿

オールネィのサン・ピエール教会

ポアトゥー・サントンジュ地方には夥しいといってもよいくらい多くのロマネスク聖堂があり、その中でもオールネィのサン・ピエール教会はまず行ってみたい教会の筆頭にあがる。

実現したのはユーロに切り替わる前、二オールを拠点にこのあたりの教会をまわる、予定なき予定だった。初日はロンサールゆかりのシュルジェール、翌日はポアチエで一日過ごし、その次の日から2日間をオールネィだけに費やした。


Zodiaque風

二オールからタクシーを使って30分くらい、ということは北からのアプローチになる。かつての巡礼路を、ブートンヌ川に沿っていくつかの小さな聖堂を通り過ぎ、麦畑以外何もない平地を進むとサン・ピエール教会の塔がみえてきた。着いたときは雨上がり、教会の敷地に入ってもだれもいず、滞在していた間に数組の観光客がやってきてはすぐに去っていった。

典型的な墓地教会で、糸杉と墓石に囲まれている。西側は前庭となり(そこも墓石がたくさんある)、この地方独特の十字架が建っている。

ホザナ十字架

三角形の石造りの何かがある。墓碑にはみえず正体が何かわからない。西からぐるりと回り、アプシス側へと出るとそこも墓碑。


糸杉が墓地にいることを実感させる

周囲をみてまわり、いよいよ扉口へ(まだ中には入らない)。

不安定な天気

周りは青空なのに頭の上には黒雲でいかにも危うい天気だった。


くもくもくもくもく

La Boîte à musique

プロイセン芸術アカデミーで作曲を教えていたシェーンベルクは1933年に公職を追われ、同年アメリカに亡命した。亡命先でも教職につき、翌年にケージが弟子入りした。弟子入りのとき「音楽を書くためには、和声の感覚を持たなければならないが君には和声の感覚がない」とシェーンベルクに言われ、本人も全く持っていないことを認めた。

西洋音楽がグローバル化したので、西洋的和声が普遍的なものと錯覚してしまうが、和声感覚はヨーロッパの地域的で独特なものであることを、この頃実感している。このような文化で出るべくして出たのがオルゴールだった。

現在のオルゴールの大半は工業的に生産され、数の上ではサンキョー(現日本電産サンキョー)、伝統の上ではリュージュ社(サン・クロワ、スイス)が圧倒している。
今年はオルゴールが発明されて220年、昨年はリュージュの創設者シャルルが製造を始めて150年と重なったためか(なぜかスイスではなく)フランスから記念切手が発行された。


Timbre 2015, France

リュージュ社のオルゴールのなかで気になっているのが「カルテル・サブライムハーモニー」Cartel Sublime Harmony と名付けられた製品で、特にその名前の由来についてだった。そこで Cartel について Larousse や Dictionnaire de l'Académie française で調べてみると、時代順に騎士の武器を飾るモットー入りプレート、騎士の挑戦状、時計の装飾または時計そのもの、壁面装飾、企業協定、企業連合などで、最後の意味は19世紀にドイツ語から加わった。目的のオルゴールに関連する意味は見いだせなかった。ふと Carillon の縮小形ではないかと思い調べていくと、結果的にそうではなかったが代わりに le type cartel dont le barillet est parallèle au cylindre ; il tient son nom du fait que dans les premiers temps, il était placé dans les socles de pendules appelées « cartel ». Par extension, le mouvement à musique a gardé ce nom. という一文を見つけた(wikipedia.fr)。Cartelタイプの時計に入れたことが始まりらしい。


Cartel(装飾)


カルテルタイプの時計 Musisque grand cartel d'époque Louis XV
Denis-Frederic Dubois, Paris, c.1765-70


櫛歯になる前のシリンダーオルゴールが組み込まれている

演奏機械としてのカルテルを調べてみると19世紀前半に遡り後半にはスタイルが固定されたようである。20世紀に入るとオルゴールそのものが衰退するのにあわせて消滅、1980年代にリュージュ社が往年の技術を復活させた。これが現在のカルテルで、他では生産していない。ただしリュージュ社の呼称「カルテル」は19世紀的な定義と必ずしも一致しないかもしれない。


オルゴール切手のドキュマン、バックにカルテルタイプが印刷されている


ドキュマンの裏はリュージュ製品の分解図

リュージュのカルテルの特徴は、櫛歯72弁×2、大型のニッケルメッキされたシリンダー、ねじ巻きではなくラチェット式のゼンマイで、通常は4曲演奏可能である。リュージュ製品にはもう一つ72弁×2のシリーズがあり、そちらはねじ巻き式でシリンダーの直径も小さい。


Cartel Sublime harmony, Catalogue de Reuge

その後、Cartelの詳細なサイトを見つけた。それによると上記のような形態が特徴となっていて、大型のオルゴールに採用されている。


72×2=144弁の櫛歯


巻き上げ用ラチェットとゼンマイが入ったカラム




連結歯車


シリンダー


膨大な数の植え込まれたピン

次いで、Sublime harmony は、直訳すると「崇高なハーモニー」、日本のいくつかのサイトでは「左右に振り分けてステレオ効果を出す」、「同じ調律の櫛歯を複数枚使う」といった記載している。出来るだけ出典に遡りたくてフランス語のサイトを見ていくと、「同じ調律」ではなく僅かに調律をずらした2枚の櫛歯を使って金属的な響きのない滑らかな音を表現する、サン・クロワのシャルル・ペラールによる1874年出願の特許が見つかり、それがSublime harmony の完成形らしい。



「僅かに調律をずらす」感覚がとても興味深い。これで思い出すのがチェリビダッケが変ホ長調シンフォニー(ブルックナー)の冒頭に出てくるトレモロを、隣の奏者と違うピッチで弾くよう指示し、その結果まるで違った効果を得ていたことであった。


高音の櫛歯は振動し易くするため薄くなっている


低音側は調節用の鉛がついている

最近読んだ倍音についての本(『倍音』音・ことば・身体の文化誌、中村明一、春秋社、2010年)で、倍音には整数次倍音と非整数次倍音があり、僅かにずれた音は非整数次倍音にあたる。オルゴールは基本的に整数次倍音が豊かであることは知られているが、サン・クロワの職人はその先の感覚を持っていたようである。和声的にみてもたいへんおもしろいので、セヴラックやミケランジェリも夢中になったのかもしれない。




オルゴール独特の機構


軸受はルビー



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