チョコとジュレ

ガトーの中でチョコボンボンとジュレはアフタヌーンティーセット全体の印象を決めている。

チョコボンボンはプチ・シェリーのボトルをイメージしているのが一見してわかる。





ジェリービーンズのようなものを除くと食べ物で青色はとても珍しい。深い青色の中に内側の世界がある。


雫のなかにラウンジ

最後までとっておいたのが、プチ・シェリーカラーのジュレ。カクテルに似たデザインの中に泡が閉じ込められていて、泡粒が午後の日差しで虹色に輝いている。

アフタヌーンの陽射し



中には洋梨が入り、タピオカのような面白い食感でもあった。


いつのまにか夕方

最上段へ

小ぶりなスコーンとサンドにみえたにもかかわらず、下2段でかなりおなかいっぱいとなってきた。ペースを落としながら最上段に移ると君臨するのはガトーたちだった。

洋梨と桃のタルトタタン
プチシェリーのジュレ
チョコボンボン 赤い桃をとじ込めて
バニラとピスターチのガトー


プチ・シェリーの香りの主役である洋梨と桃がタルト・タタンとなった。


タルトといえばおしゃべり好きと決まっているが、プチ・シェリータルトもまたおしゃべりの機会を待っているようだった。バニラも香りの中に入っているから、サンドウィッチに続いてここでも豆腐(またはしろたえのチーズケーキ)のような四角四面で登場した。



アフタヌ−ンティー下2段

風強く晴れた4月の椿山荘、アフタヌーンティーの主役が運ばれてくるのを待つ。


ラウンジの窓越しにみえる新緑

ついに運ばれてきたアフタヌーンティーセット、今回は順序通り下段のサンドウィッチから食べていくことにする。




下段のメニュー

食べてみて特徴的だったのは、傾向が全く異なる味の素材を使って意外性を調和させていること。特にフォア・グラとジャムの組み合わせがそうだった。プチ・シェリーの香りは、Poire, Peche, Rose musquee, Herbes fraichement coupees, Vanille が入っているが、香りというよりはコンセプトがミルフィーユで表現されているようだった。

スモークサーモンとクリームチーズのフィールドグリーンは壜の色(Eau de Parfum のまるいボトル)から思いついたのではないかと想像させる色。

中段はヴァニラ、白桃、プレーンのスコーンで、プチ・シェリーの香りからきているようである。ここまでは紅茶以外に洋梨は登場していない。

椿山荘のアフタヌーンティー

先月のこと、深い考えなしにアニック・グタールのニュース検索をしたところ、椿山荘でプチ・シェリーをモチーフにしたアフタヌーンティーが期間限定であることを知り、初日に桜がまだ残る椿山荘へと向った。


椿山荘、中央がラウンジ

2年ぶりの椿山荘は、天気は良いものの、朝から強い風が吹くなか、早稲田駅からはタクシーで、ラウンジから離れた入口に到着。



時間まで庭の中にいる予定だったのが強風のため窓越しに眺めるだけとなった。


庭にはまだ桜

混んでいるのではないかと思って予約をしておいたけれども、平日だったせいか席には余裕があった。


ラウンジの入口

最初に頼んだ紅茶はもちろんラ・フランスティー。花びらで香りをつけている。



お茶を飲みながら、セットのくるのを期待しながらしばし待つ。

Nuit Étoilée


今年のクリスマス限定プチシェリーコフレを買ったときに見つけて気になっていたのが、プチシェリーと同じアニック・グタールのクリスマス限定で発売されたニュイエトワーレ Nuit Étoilée、ゴッホの『星月夜』と同じ名前の香水だった。



『星月夜』は横浜でMOMAのコレクションが展示された時にみることができた。生成中のダイナミックな過程にある宇宙を直感的に把握したような渦巻が描かれている。


Nuit Étoilée, Van Gogh, 1889.


コフレを買ったときは Nuit Étoilée のサンプルがなかったのでどんな香りかわからなかったけれど、ようやく入手できて香りがわかった。


香りの印象は、松や樅(松も樅もマツ科)の樹脂が入っていることもあり、地中海的なプロヴァンスの糸杉を描いたゴッホよりも、北方の針葉樹の森である『くるみ割り人形』第一幕最後の場面、Une forêt de sapins en hiver(冬の松の森)にとても近い。


ニューヨークシティバレエの舞台


もうひとつのイメージは、


Neiger de blancs bouquets d'étoiles parfumées.

香かも高き素白き星の花束の(あらはれ


今年のクリスマスケーキはラカム


プチシェリーのクリスマス限定コフレ


今年のアニック・グタールのクリスマス限定コフレが発売になり、早速ゲットできた。


箱のデザインはクリスマスツリーの蝶と星で、中はプチシェリーのオー・ド・トワレとクリームの組み合わせだった。


2012年版


中はプチシェリー


コフレは毎年買っているわけではないけれど、今回で五つ目になった。毎年箱のデザインが違い、中も少しずつ違っている。


黒箱の年もあった


沢山の星


香水瓶の実がなる。ちゃんとオー・ド・トワレとパルファム(丸いボトル)がある。


プチシェリーに限って一番良かった箱はオー・ド・パルファムの限定品スティックだった。箱いっぱいに洋梨がデザインされているので、捨てずにとってある。




香水(文庫クセジュ)


ジャン=クロード・エレナ著、芳野まい訳、白水社、2010年



エルメスの専属調香師でそれ以前にも多くの香水を世に出したエレナによる香水について。これまでも調香師の書いた本は出ていたが、文化的な関わりについてはあまり書かれていなかった。調香師というと、普通の人よりも数倍の香りを嗅ぎ分け、しかも記憶する特殊な能力を持っているイメージだったが、現代はそれに加えて科学的知識も必要になっている。本書でも抽出法や分析法は最新の技術を使っていることがわかる。


香水の処法とは、匂いを重ねることではない。かたちを与えること、すなわち、匂いのあいだの関係をつくりながら、組み立てて構成していくこと。(67ページ)


調香はコレスポンダンス、コントラスト、ヴァリアンテ、過剰さの働きを表現するものである。

素材のあらゆる組み合わせから生まれた調香によって、リズムやメロディーを探しながら、嗅覚のとらえるかたちをつくっていく。(81ページ)


「コレスポンダンス」を挙げているのはボードレールを意識しているように思える。エレナがフランスの知的な芸術家らしいと思うのは(その点でボードレールの末裔である)、「時間」の章である。


冒頭にはプルーストの有名な言葉「1時間は、ただの1時間であるだけではない。それはさまざまな香りと、音と、計画と、天候とに満たされた器だ」(見出された時)を引用している(「器」は『スワン家のほう』の「ヴィヴォーヌ川に沈めたガラス瓶に対応するものだろう)。


ヴィヴォーヌ川(ロワール川)、イリエ=コンブレー


まず調合でのタイミングのノウハウ、香りの経時的変化など調香の過程での時間についてざっと解説して(時間と香水)、「創造の時間」に入る。香水のアイディアやきっかけは、自由時間にやってきたという。創造の時間は、あるときは数日、あるときは数ヶ月かかった。感じる時間について、


香水を感じる、香水を嗅ぐ、それは連続する瞬間を感じることだ。この作用を使って遊び、あるいはその裏をかく、それが香水を調香する調香師の仕事なのである。(98ページ)


エルメスでの創造は


時間を無駄にし、探し、捨て、とって置いたり忘れたりして、自分の職業を生きる。(102ページ)


マーケティングについて一章を割いている。

1970年代にマーケティングの手法が採用されはじめ、品質が保障され競争力を強めることができた。エレナもこの手法を使用しつつも、創造にはつながらないと考えている。


さまざまな分析のパラメーターのなかから、どのパラメーターにするかは、ブランドのターゲット市場の望むプロフィールに合う理想的なダイアグラムの香水をつくりあげなくてはならない。調香師は、さまざまなパラメーターに従って匂いを選び、あるいは省きながら「カーソル」機能を使って、調香していく。(105ぺーじ)


けれどもその結果、


こうして調香師は、製品開発するうえでの繊細な個人的判断と創造的方法からは遠ざかることとなった。

(このような)「良い」香水は、すぐその製品とわかり、驚きはもたらさない。瞬時に、同化するように受け入れられる。


「良い香水はほとんどつねに、ありきたりの考え、デジャ・ヴュやステレオタイプによってつくりあげられ」るので、「創造」からいよいよ遠ざかり、消費者はかえって幻滅した。


アニック・グタールのカミーユさんもこのことについて触れていた。たいていのブランドは消費者のリサーチから始めて「マーケティング」を行うが、私たちはつくりたいものをつくる、と。


エレナもこのような「マーケティング」の行き詰まりに対する新しい動きとして、まっさきにアニック・グタールを挙げている。ただ、この方法は流通がかなり制限されるのが欠点である。


芸術作品のような「時間の外に」生きる香水をつくるには「パイオニアたれ。センセーショナルよりもエモーショナルを。自分の枠、コード、いつも言葉の外に出ろ」という。


文化的背景を十分に理解したうえでの翻訳は読みやすく、素晴らしい本であった。



ミモザ


少し前にアニック・グタールの公式HPに新しい香水が出ていたので早速チェック。


今回の発売は「ミモザ」Le Mimosa という香水だった。Eau de Toille 、この春限定。グラース(フランスのプロヴァンスにある香水の町)産のミモザをトップノートとした春の香り。日本で最初の調香師となった堅田直久さんの『香水』(保育社カラーブックス、1965年)によると、


雪と氷の北欧とは反対に、南欧とくに南仏海岸はたいへん暖かく、初冬から、いたるところにボール状で、黄金色のミモザの花が青空に照りはえて咲きはじめます。これはあたかも、春の訪れを告げる生きた天使ともいうべきものでしょう。(101ページ)


二月のカンヌでは、ミモザの花祭りが行われます。花ぐるまは町じゅうをねりあるき、小さなミモザの花束を投げあったり、紙吹雪をまきちらしたりしてさわぎます。(31ページ)


アニック・グタールのトップページ(4月16日現在)


ミモザはオーストラリア原産のオジギソウの仲間、香りの良さから1830年代に南仏に入るとすぐに香料として使われ、グラースではバラやジャスミンに次いで多く作られているそうである。


洋梨の香りではないけれども、「ミモザ」は気になった。というのも家の庭にミモザ(パールアカシア、どちらも同じオジギソウの仲間)を昨年植えたからである。庭のミモザは順調に育っていき、2月初めには蕾もたくさんついた。初めての開花を待つばかりという矢先に、2月中旬にいきなり降ったドカ雪の重みで真ん中から折れてしまった。回復の目処がなく、雪(家ではバカ雪と名付けた)をうらみつつ上部分は泣く泣く処分、残りの部分は何とか開花してくれた。


庭のミモザの花、ぽんぽんと賑やか


ちょうど開花したころに発売となると聞いて「ミモザ」を予約、予定通りに購入もできた。香りは「プチ・シェリー」にも似たフローラルで明るく、アイリスやアニスといった香りも加わった、まさに春の香り。ムスクの香りが隠し味のように入っている。


ラベル


パッケージとリボンはミモザ色にドット、カミーユのデザインだそう




ローズ・スプレンディッド


アニック・グタールから昨年限定発売されたオゥ・デ・コロン、香りの中に洋梨が入っているというので入手。


Rose splendide

ラベル


前からあったボーム・スプレンディッドの香りによく似て、飽きのこない香り。

甘さは少ないが、確かに洋梨の香りが含まれている。


ボトルは100mlで大きい


Stadt Köln Nacht

ケルンの水


アニック・グタールの香水

リーマン・ショック以来低迷を続けているデパートでも、香水売り場では沢山の香水が売られている。どこにでも売っているような製品の多くは人工的な香りがする。そのような香水から昔日の魂が迸り出るようには思えない(ボードレールが賞賛した「人工」とは違う気がする)。


たまたま現れる古い香水壜は、過ぎし日を思い出し、

その中から、甦る魂が、生き生きと迸り出る。

『香水壜』(ボードレール、『悪の華』、阿部良雄訳)


Parfois on trouve un vieux flacon qui se souvient,

d'ou jailit toute vive une ame qui revient

Les Fleurs du Mal, Odilon Redon, 1890.


そんな中でフランスのアニック・グタールの香水(これも日本ではごく一部にせよデパートで売っている)は、いわゆる「売れ筋」製品と全くコンセプトが異なっている。このブランドはアニック・グタールが創始し、53才で急逝した後は娘のカミーユさんが引き継いでいる。以前、カミーユさんがが日本での新作披露のため来日したときに、いろいろお話を伺う機会があった。カミーユさんは少なくとも30代は過ぎていると思うが、スキンケアも出しているブランドのオーナーだけあって、とてもお肌はきれいであった。ヨーロッパ人は20代を過ぎるとお肌の衰えが大きく、ギャップが激しい。


だが、この美も、少数の見事な例外(私はそれをオペラ座や音楽会の特等席でみかけるが)をのぞいて、二十歳を境に急速にうつろい果てゆくのである。たとえば、ヨーロッパの女性の三十歳は、日本では完全に四十歳以上に見えるだろう。

饗庭孝雄、石と光の思想、平凡社、1998年、36ページ


お話されたことによると

  • 一つの香水を創り出すには千以上の香りを調香する(プチ・シェリーには140種類の香りが入っている)。
  • 大手は市場の動向を調べ、「マーケティング」を行って製品開発するが、アニックでは好きな香水を創る。
  • 香りの原料は年により変わるので、合わないときは創らない(そのため欠品することもある)。
  • 調香はイタリアの修道院の一室(中世そのままの部屋)で行っている。


調香専用の部屋の写真を見せて頂いたが、トスカナ地方の修道院にある庭に面した部屋で、大手メーカーの近代的な調香室とは全く違う。工業生産により香水を作ることを考えれば後者のほうがよいかもしれないが、香水を創るには相応しい環境が必要である。


これは香水に限らず、絵画を美術館の必ずしも適切な光条件とはいえないライトの下でみるのと、自然光の下でみるのと全く違うのと同じである。バルテュスは人工的な光を嫌い、自然光ふんだんに入るアトリエで制作しし、自作の展覧会も自然光がある会場を要求した。レンブラントは注文された絵画を納品するとき、光を考慮して壁にかける位置を決めたという。欧米には自然光の美術館は多いが、日本では少ない。先のバルテュス展は東京駅のステーションギャラリーで開催された。音楽も特に聖歌は、現代のコンサートホールで聴くのと、聖歌の創られた時代の教会内で聴くのでは全く違ってくる。


香りの「色」による分類


 ス・ソワール・ウ・ジャメ(「今宵限り」、1998年)は既に闘病生活にあった中で創出された、自身のためのもの。そして翌年、最後に創出されたのがプチ・シェリー(カミーユの愛称)で、まるで娘への遺言のようである。しかし香りにはそのような重さはなく、嬉しくなるようなフローラルな香りである。プチ・シェリーは日本では最も人気があるという。


ピレネーの町ポーの香水店のショーウィンドウ、2007年時点でポーにブティックはない。


ストラスブールのブティック


飾られていたのは発売間もないマンドラゴール


 「マンドラゴール」の香りは中世をイメージしたという。珍しく花の香りを用いていない。恋を叶える妙薬として知られたマンドラゴラからインスピレーションを得ている。そのため、ディスプレイも中世をイメージしたデザインである。建築仕立てになっているが、よく見ると等高式(ホール型)の聖堂建築からモチーフを得ている。建築モチーフを転用することは聖遺物匣やツィボリウムでよく利用されていた。


アルヌルフ王のツィボリウム、ランス、890年、レジデンツ宝物室、ミュンヘン


典型的なポアトゥー地方の等高式教会、サン・サヴァン旧修道院聖堂


左からス・ソワール・ウ・ジャメ(EDT)、同(EDP)、プチ・シェリー(EDT)

シルエットは調香用スティックを手にしたアニック


天然香料を用いているので、お店に置いておくとアニック・グタールの香水だけミツバチが寄ってくる、と店員さんが話していた。


 EDT: Eau de toille

 EDP: Eau de parfam

 EDPはEDTよりも香水中の香気成分濃度が高い。


アニック最晩年の作品「ス・ソワール・ウ・ジャメ」(「今宵限り」、1998年)と「プチ・シェリー」(1999年)には、どちらも洋梨の香りが入るという共通点がある。共にミドルノートの中にある。「ス・ソワール・ウ・ジャメ」の全体的な印象は薔薇の花の香り、「プチ・シェリー」の香りは薔薇科の果物の香りであり、そのどちらでも薔薇科の果物が香っているということになる。


薔薇に遺言を託したということは、リルケの墓碑銘を想起させる(詳しくは「おらが城の教会」)。それでは洋梨には何が託されているのか。リルケの『オルフォイスへのソネット』のなかに次のような詩がある。


ゆたかな林檎よ 梨とバナナよ
スグリよ……これらはみんな口のなかへ
死と生を語りかける……ほのかに私はそれを感じる……
子供の顔からそれを読みとるがいい

……それは二重の意味をもっている それは太陽のものであり 地上のもの 此の世のものでもあるのだ…… 

(富士川英郎訳)

 リルケより少し後に、同じスイスのベルンで死を前にしたクレーは洋梨をモティーフとした作品を多く描いていた。

洋梨を讃えて、ベルン美術館、1939年

静物、ベルン美術館、1939年


 リルケとクレーの他にも洋梨に生命を見いだした画家は古代にもいた。


ヴィーン創世記、ヴィーン美術史美術館、4世紀


「ヴィーン創世記」では、知識の実林檎に対置させて生命の身を洋梨として描いている。洋梨の形が心臓に似ていて、どことなく魂の形を思わせるところがあることから、生命を象徴するようになったのであろうか。「ス・ソワール・ウ・ジャメ」、「プチ・シェリー」二つの香水も死の後の再生を込めているのかもしれない。



いまは亡い人にたいする復活の象徴のように見えるのであった

『失われた時を求めて』(ベルゴットの死)、井上究一郎訳



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