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経済誌の音楽記事


たまに経済誌(ネット版)音楽がとりあげられると「経済的観点」というバイアスが加わるためか、変な展開をして無意味な内容で終わることがある。2月25日の会社四季報の記事(コラムのようなもの?)もそうだった。

「クリエイティブ・エコノミー」時代の勝ち組企業の条件

経済関係だったらまず、ピアノを含めたクラシック音楽産業は既に世界的に衰退に入っているという事実を確認して、それを前提にしなければいけないが、そうしたことは無視してこれからも拡大するものと著者は考えている。

ピアノメーカーとして勝ち残るには、

世界的なピアノコンクールでピアニストたちによって選ばれ演奏されることが「一流の証し」となる。

コンクールの採用は最低限の条件で、ピアノコンクール出場ピアニストだけではなく、トップのピアニストが選び続けなければ「一流」とは言えない。現代の画一化され、「演奏ロボットが優勝しかねない」と揶揄されるコンクールで優勝したといっても、ピアニストがその後生き残るとは限らない。実際ショパンコンクールで優勝したのにその後の活躍がないピアニストも多い。この記事では芸術性の視点の欠如が後々おかしな結論を導いているように思う。

単なる世界シェアナンバーワンでは、ピアノの世界ではトップブランドとは認定されない。名実ともに世界一のピアノメーカーになるには、ヤマハは、世界的なピアノコンクールでピアニストたちによって選ばれ演奏されるピアノにならなければならない。

2015年のショパンコンクールで入賞6人のうち、3人がスタインウェイ、3人がヤマハという結果になった。そのときのヤマハの社長のインタビューで、

フェラーリは商売としては世界一ではないが、誰もが憧れるすごい車をつくっている。(ヤマハとしても)誰もが憧れる、そういうものを作りたい。音楽というのは必需品ではない。(だから)みんなが憧れるものを作って、初めて『これを使ってみたい』と思われるようになる。

と語った(これは上記記事のなかの記載を引用したもので、元のインタビュー記事(その元はテレビ東京のTV番組)を読むとニュアンスが違っているので注意しなければならない)。


ヤマハの社長はさすがに状況を把握している。「誰もが憧れる」製品はスタインウェイの「トップが憧れる」ピアノとは立ち位置が既に違う。しかし引用した記事の著者は、この違いに気付いていないようで、強引に自説と結びつけているようである。

クリエイティブ・エコノミーの時代には世界のトップランナー、トップブランドであることが重要なのだ。シェアだけを追っていたら、いずれは韓国や中国のメーカーに追いつかれてしまうことにもなりかねない。

スタインウェイ社はピアノ産業を創り上げてきた歴史がある。19世紀当時としては画期的なローン販売(世界初かもしれない)、手工業的だったピアノ製作に導入した近代的生産方式、超一流ピアニストを起用した販売戦略、そして何よりも「音楽」を決して忘れなかった(「音」しか出ないピアノが多い)ことがトップとして君臨できた要因である。しかしそのスタインウェイ社も過去何度か身売りし、企業としてみたらいまのスタインウェイ社を超一流とはとてもいえない。

ヤマハは世界トップシェアを誇るが、トップブランドではない。ヤマハのピアノはリヒテルが気に入り、グールドが2度目の『ゴルトベルク』を録音したことでも知られる。それでもピアニストの多くはスタインウェイを選んでいる。なお、リヒテルはピアノを選ばないタイプ、地方の劇場にある調律も狂い壊れる寸前のピアノから信じられない音を出した、という話が伝わっている。グールドは録音直前に愛用のスタインウェイが輸送中に壊れ、やむをえず探し出したのがヤマハだった。



国連の調査では2015年に73億人だった世界の人口は、15年後の2030年には12億人増えて、85億人になることが予想される。新興国経済は現在減速を余儀なくされているが、長い目で見れば、これから先、ピアノなどの音楽を楽しむ層が増えていくようになるだろう。

多くの兆候は逆のことを示している。単純に総人口が増えるからピアノ人口が増えるというのは経済の専門家にしては安易である。皮肉なことには国産ピアノの中古市場が成長し、新品の売上を奪っている。

音楽を楽しむ層=ピアノ人口ではなく、それ以前にポップスでさえ聴く人口は減っている。クラシックは特に衰退著しく海外の超一流ピアニストでも来日コンサートで満席にならない事態が起こっている。2000年以前を知っていれば信じられない状況であるが、ピアノ購入を含めて今後逆転が起こるとは考えにくい。

中古といえば、「30年前のピアノでも売れる!」という中古ピアノ店のネット広告があるが、裏をかえせば30年前のピアノは価値がないと思われていることになる。国産ピアノは古くなるほど価値が下がるのに対してスタインウェイは価値が下がらないどころか、年代によっては高価にさえなる。この違いはどこからくるのか考えると面白い。

次は音楽教室について、

こうした点を見据えてのヤマハの動きも抜かりないようだ。ヤマハピアノ教室の卒業生は500万人を超える。海外のヤマハピアノ教室もすでに1964年の段階で最初の拠点を開設、現在では世界40以上の国と地域に広がり、生徒数は累計19万人以上に及んでいる。

このデータは古すぎる。ヤマハのピアノ生産のピークは1980年頃で、その後漸減、1993年にはピークの50%まで減少している(佐々木崇暉、大量生産経済の行き詰まりと地域経済、静岡県立短大研究紀要12-1、1998)。

2000年以降ピアノの販売は世界的に落ち、ピアノ教室に通う生徒も少子化やお受験の影響で激減している。その分を大人でカバーしようとするが、ヤマハが2013年に発表した「中期経営計画2013〜2016」には「海外ではアジアを中心に生徒が増加するも、国内では少子化によるヤマハ音楽教室生徒の減少を大人の音楽レッスンで補えず、全体で減少継続」と記載されている。 ヤマハはピアノ人口が今後増えそうにもない前提で別の道を模索しているはずである。 


クラシック音楽がクラシックと呼ばれるゆえんは、時間を超えて人々に愛され感動を与え続けるからだ。ショパンが生まれて206年になるが、これから先200年後もおそらくは人々はショパンの音楽を好んで聞いているだろう。そうした未来を見据え、ヤマハは名実ともに世界のトップブランドになるべく、より高品質のピアノ作りに挑戦している。この姿勢は、これから先、企業価値という数字にも反映されていくことになるように思う。

ショパンはヤマハを弾かなかったが愛奏したプレイエルは2013年に生産を中止してしまった。著者は実際にヤマハとスタインウェイの音を弾き比べたことがあるのだろうか。一度でもしていれば歴然とした違いに驚き、記事の内容にも反映されることと思う。銀座の山野楽器には、ヤマハと3大ピアノメーカーのピアノが同じ売り場に並んでいる。

『今のピアノではショパンは弾けない』の著者高木裕さんは、生産性を上げるために画一化され個性を失ったピアノではショパンの音楽を引き出せない、ヤマハのピアノには「芸術性」がないと訴えている。

芸術性と大量生産は相反し両立させるのは難しい。おそらく「より高品質」を意識している限り芸術性のあるピアノを作り出すのは無理と思われる。

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