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28000件

 
「プルースト効果」?

たまたまネットで調べていたらヒットした。

2010. 4/ 8, 20:20現在、Google検索で約28,000件ある。

何だろうと思って読んでみると


無意識な記憶によってよみがえる自分 の過去の時間を見つめる「時間の心理学」をテーマにした長編小説『失われた時を求めて』で著者のマルセル・プルーストは、普段はほとんど思い出したことのない過去の出来事が、マドレーヌ入りの紅茶の香りで突然生き生きと想起されたことを描写していることから、においが情動と結びついていることが多い過去の記憶を鮮明に喚起 させることをプルースト効果(現象) と呼んでいる

引用:香りの文化史、日本香料工業会


ということである。あれっ、何だかおかしい、と思って他のサイトの記述を見る。

28000件もの記事(大半はブログ)全てを見たわけではないが、少なくとも先頭100件は確認した。表現の違いはあっても、香りが過去を想起するという点で全て同じ内容であった。


何がおかしいか、「マドレーヌ入りの紅茶の香りで…」の部分である。


該当する部分は


あの小づくりでまるくふとった、プチット・マドレーヌと呼ばれるお菓子の一つだった。そしてまもなく私は、うっとうしかった一日とあすも陰気な日であろうという見通しとにうちひしがれて、機械的に、一さじの紅茶、私がマドレーヌの一きれをやわらかく溶かしておいた紅茶を、基地ビルにもっていった。しかし、お菓子のかけらのまじった一口の紅茶が、口蓋にふれた瞬間に、私は身震いした、私のなかにおこっている異常なことに気がついて。すばらしい快感が私を襲ったのであった、孤立した、原因のわからない快感である。その快感は、たちまち私に人生の転変を無縁のものにし、人生の災厄を無害だと思わせ、人生の短さを錯覚だと感じさせたのであった、あたかも恋のはたらきとおなじように、そして何か貴重な本質で私を満たしながら、というよりも、その本質は私のなかにあるのではなくて、私そのものであった。私は自分をつまらないもの、偶発的なもの、死すべきものと感じることをすでにやめていた。一体どこから私にやってくることができたのか、この力強いよろこびは? それは紅茶とお菓子との味につながっている、しかしそんな味を無限に越えている、したがって同じ性質のものであるはずはない、と私は感じるのであった。

『失われた時を求めて』、『スワン家のほう』、井上究一郎訳

プルースト全集1、57ページ、筑摩書房


 なるほど、そのように私のそこでぴくぴくしているもの、それはあの味にむすびつき、あの味のあとについて私の表面まで上がってこようとする映像、視覚的回想に違いない……

同上、58ページ


 突如として、そのときの回想が私にあらわれた。この味覚、それはマドレーヌの小さなかけらの味覚だった……

同上


「小づくりでまるくふとった」コンブレーのマドレーヌ


記述では「味覚」であって、どこにも「匂い」は出てこない。

長い小説の中でも「匂い」による記憶の喚起はなかったと記憶する。


ブログ作者の大半は、こういう話題があると言って出典不明の記事を無批判に受け売りしているだけで、小説そのものは読もうともしない。そんな記事を書いて(コピペして?)何になるのか不思議である。


匂いについては作家自身、干草熱(ブタクサによる花粉症、杉花粉症のないヨーロッパでは最もポピュラー)に悩まされ、また薔薇の香りを嗅ぐだけで喘息の発作を引き起こすくらい敏感であり、香りを楽しみたいときは日本製の水中花(もちろん香りはない)の代用ですませるしかなかった。小説の中でも、ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』を聴いたとき、薔薇の香る場面(第3幕)の音楽が見事であったので喘息の発作を起こしてしまった、と主人公が回想している。


このエピソードから何かしら法則化したほうが、よほど「プルースト効果」らしい。あるいは、「ボードレール効果」としたほうが更にふさわしい。


プレ=カトランの庭、コンブレー



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  • 2017.07.17 Monday
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コメント
5年も前の記事ですが、気になったのでコメントさせていただきます。
「香り」か「味」かという問題についてですが、
例えば「この味覚、それはマドレーヌの小さなかけらの味覚だった……」の部分、
フランス語原文では
《Ce go&#251;t, c'&#233;tait celui du petit morceau de madeleine que le dimanche matin &#224; Combray》
となっています。この有名なマドレーヌのシーンで何回か登場する《go&#251;t》という単語ですが、これは英語の"flavor"同様「味」「風味」「香り」などの意味を持ちますから、これを「香り」と解釈するのも間違いではないと存じます。
  • 通りすがり
  • 2015/12/14 1:15 AM
先ほどのコメントですが、送信の瞬間にフランス語部分等が文字化けを起こしていることに気づきました。そのまま送ってしまい大変失礼致しました。
  • 通りすがり
  • 2015/12/14 1:18 AM
通りすがり様、コメントありがとうございます。
フランス語のニュアンスに立ち入ることができるほど詳しくはないのですが、ご指摘頂いてから考えてみました。
薔薇の香りで発作が起きるほど繊細な嗅覚を持っていた著者なのに、odeurやarome等を選ばずに味覚の意味が強いgout を選んだのは、文脈が味覚主体だからだったのではないかと思います。
ただ、生理学的に味覚と嗅覚は切り離すことはできないので、香りのニュアンスも含まれている gout がこの場合最も合っていると考えることもできます。
  • びるね
  • 2015/12/15 9:29 PM
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